元ネタは

nostalji2012-02-18

録画保存していた『風と女と旅鴉』(1958年・東映/監督:加藤泰)を観る。母の墓参りに故郷へ戻る途中で若いヤクザの銀次(中村錦之助)は島帰りの初老のヤクザ仙太郎(三国連太郎)と知りあいます。ふざけて二人で長脇差を抜いていたら、通りがかった目明し(殿山泰司)が二人を強盗と間違え、年貢賄い金をおっ放り出して逃げるんですな。金を持ち逃げしようとする銀次を仙太郎が諭して二人はその金を町まで届けることにしますが、強盗と思った町の連中に猟銃で撃たれ、銀次は深傷を負います。誤解は解け、町外れの農夫(加藤嘉)の家に運び込まれた銀次は、農夫の娘おちか(長谷川裕美子)の世話をうけ、気まぐれからおちかに手をつけるのね。
鬼鮫の半蔵(進藤英太郎)という悪党一味が近辺を荒らしまわっており、町の世話役の銭屋(薄田研二)は仙太郎を用心棒に雇い、仙太郎は傷が癒えても何かと反抗的な銀次にも手伝わし、恐喝にきた鬼鮫の子分2人を捕まえますが、一人(河野秋武)を銀次は5両の金で逃がすんです。鬼鮫は手下を率いて銭屋を襲い、町民の千両箱を奪います。その時、鬼鮫と仙太郎が同じ島の囚人仲間であったことと、銀次が5両で手下を逃がしたことを町民に知られるのね。慕っていた娘(丘さとみ)から冷たい眼をむけられた銀次は仲間になるために鬼鮫のところへ。町民から疑われた仙太郎は、金を取り返すために一人で鬼鮫のところへ乗りこみます。銀次は仙太郎と対決しますが、鬼鮫の卑怯な行為に怒りを爆発させ、仙太郎の代わりに鬼鮫を倒して一人去って行くので〜す。
この映画の面白いところは、良識的な仙太郎を主人公にせず、狂犬のような銀次を主人公にしたことですね。長谷川伸などの従来の股旅映画に見られない設定です。父親がならず者だったために世間から冷たい眼で見られ、母親は自殺という暗い過去を背負った若者の荒々しい感情を錦之助は見事に演じています。ヤクザになった息子を死なせ、銀次に息子の姿を重ね、銀次をなんとか立ち直らせたいとする仙太郎を、哀切感ある静かな演技で見せた三国連太郎も見事です。明るい時代劇全盛の時に、こんな作品は異質で、一般受けしなかったのは無理ありません。これは隠れた佳作といえます。
ところでこの作品は、西部劇『追われる男』(1956年/監督:ニコラス・レイ)が元ネタでして、ストーリー展開は同じです。違うのは主人公が初老の前科者ガンマン(ジェームズ・キャグニー)で、若者(ジョン・デレク)は更生できずに死ぬんですけどね。定型股旅映画と同じね。物語の深みでは、オリジナルより翻案の方が勝りま〜す。