東映娯楽版

nostalji2016-10-26

友人に送ってもらった東映時代劇『月笛日笛(三部作)』(1955年/監督:丸根賛太郎)を観る。原作は吉川英治のジュビナイル時代小説です。
愛慕って音を生ずる二管の名笛・月笛日笛を所有する六条左馬頭(石井一夫)と菊太郎(伏見扇太郎)の兄弟は、都の人たちからも慕われています。加茂の宮で禁裏と武家の代表が競い馬をすることになり、左馬頭が出場。武家の代表は豊臣秀吉(原健策)の馬術指南役・鬼怒川粛白(山口勇)で、これが悪い奴。部下の当麻(青柳竜太郎)たちを使って六条兄弟に嫌がらせをします。6年前に裏切者によって滅ぼされ、笛が好きだった行方不明の天童家の姫・春美を捜している鷹取りお雪(西条鮎子)に兄弟は救われます。競い馬の日が近づき、菊太郎を慕う鞭師の娘・お千賀(宇治みさ子)が当麻と六条家の馬番・才助(団徳磨)と密談しているのを目撃。才助に毒を飲まされた愛馬に乗って左馬頭は競い馬に出ますが……(1部:月下の若武者)
愛馬は狂い死にして左馬頭は落馬。左馬頭は名馬を求めて信濃に旅をし、名馬・吹雪に乗った春美(千原しのぶ)と出会い、月笛と引き換えに吹雪を手に入れます。才助の悪事を知ったお千賀は粛白一味に捕らえられ、粛白との再戦を目指す左馬頭は当麻に吹雪を盗まれて追いかけますが、粛白一味が左馬頭を襲撃。音の生じない日笛から兄の危難を察知した菊太郎が駆けつけますが……(2部:白馬空を飛ぶ)
粛白一味に襲われた左馬頭は菊太郎に救われ、陰ながら六条兄弟を見守っていた正義の士である豊臣の武将・加藤孫六(加賀邦男)が当麻から吹雪を取り返します。従僕の小平次(有馬宏治)と京にきた春美は小平次から粛白が父を裏切った男であると知らされるのね。小平次は旧知の孫六に相談しますが、春美は粛白の屋敷へ。しかし、落とし穴に落ちて捕らえられ、そこにはお千賀も捕まっています。孫六の口から秀吉に自分の素性がばれた粛白は、一味と京から逃亡。春美の吹く月笛の音で、菊太郎はお千賀と春美を救い出し、京に戻って来たお雪から粛白一味が千丈ヶ原に向かっていることを知らされます。左馬頭と菊太郎は、粛白一味を追って千丈ヶ原へ……(3部:千丈ヶ原の激闘)
『笛吹童子』の大ヒットで東映は、少年・少女層の顧客を対象にした上映時間が1時間に満たない作品を量産していきます。それは東映娯楽版と呼ばれ、テレビがまだ普及していない時代にあって、少年・少女たちにとって極上のエンタテインメントになりました。
この作品もその一つで、主人公は正義感あふれる公家の美青年、悪役は奸佞を絵に書いたような氏素性のわからぬ武士、主人公にからむのが滅亡した大名の美しき遺児と薄幸な町娘という典型的な古典時代劇です。数多くの時代劇を演出した丸根賛太郎らしく、時代劇のツボを押さえた手堅い演出で大人の鑑賞にも耐えるものとなっています。当時の少年・少女にとっては、苦境に負けることなく、善を貫くことで人間として守るべきことを教えられたのです。