問題作だが

nostalji2016-11-15

ダビングして持ってきた『みな殺しの霊歌』(1968年・松竹/監督:加藤泰)を観る。会社から『五辯の椿』の裏返しを狙った、五人の女が一人ずつ殺されていく話を要請されて加藤泰が作った作品です。
時効の近い殺人犯・川島(佐藤允)は、5人の女に輪姦されて自殺した少年の復讐のために、女たちの一人・孝子(応蘭芳)を殺害します。川島は、殺害が虐げられた人間の最後の手段だと思っていたのね。いきつけの食堂で働く春子(倍賞千恵子)が、切羽詰まった状況で乱暴者の兄を殺して執行猶予中の人間と知って、川島は春子に親しみを感じ、春子も川島に好意を持ちます。春子は川島が指名手配中の殺人犯と知って自首をすすめようとしますが、川島は次々と復讐を実行。やがて、警察に川島の犯行がわかり……
裸にされた応蘭芳の殺害に始まり、中原早苗、沢淑子(任田順好)、菅井きん、河村有紀と殺されていきます。冷酷非道な殺しのテクニック、暴力とエロチズムが妖しく交錯した映像。菅井きんの殺された顔写真なんてホンモノの死体写真かと見がもうばかりです。モノクロならではのシャープで陰影の深い映像美と、ローアングルから繰り出される画面構成がすばらしく、加藤泰の映像世界に翻弄されます。
加藤泰は松竹側に山田洋次監督の協力を要請し、加藤泰が造形してきた「許される殺人」を心情とする人間と、山田洋次が造形した倍賞千恵子の役柄にみられる正当な世界に生きてきた人間の触れ合い結びつきを志向しましたが、成功したか疑問です。内容的には、主人公に感情移入できなくて、私としては今イチでした。