リアリズム時代劇

録画保存していた『血槍富士』(1955年/監督:内田吐夢)を観る。中国抑留から帰還した内田吐夢の第1回作品です。
仲間稼業の権八片岡千恵蔵)は、酒匂小十郎(片岡栄次郎)と槍持ちをして小者の源太(加東大介)と共に、東海道を江戸に向かっています。槍持ちに憧れる浮浪児の次郎(植木基晴)が権八にくっついて歩き、一行は袋井宿へ。彼らの他にも、権八や次郎と親しくなる旅芸人の母娘(喜多川千鶴と植木千恵)、身売りする娘(田代百合子)と父親、大泥棒を追っている岡引き(加賀邦男)、大金を持っている男(月形龍之介)、謎の商人(進藤英太郎)などが旅しています。大井川が川止めになったことから同じ宿に逗留することになり……
富士山の見える東海道の道筋や、松並木に草ぶきの屋根の家といった、かつての時代劇ではお馴染みの情景が情感豊かに描かれ、グランド・ホテル形式で旅する人々の人生模様が語られます。小十郎は優しい心を持っているのですが酒癖の悪いのが玉に瑕。本人もそれを自覚しているのですが、酒屋で隣席にいる5人の侍の無礼をとがめたことから争いになり、小十郎と源太は無惨な最期を遂げます。槍を持って駆けつけた権八は5人の侍と対決。権八は槍の名人ではありません。怒りにまかせて槍をブンブン振り回して迫ってくる権八の気魄に侍たちはたじろぎ、一人また一人と倒されていきます。突いた酒樽から流れ出た酒が地面を濡らし、泥だらけになって戦う死闘。東映の特徴である様式美に満ちた殺陣でなく、リアルな殺陣は圧巻で~す。

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