片手間に読んでいた

日本文藝協会:編の『時代小説ザ・ベスト2020』(集英社文庫:2020年6月25日第1刷発行)を読了。2019年度発行の文芸誌に掲載された作品群から11の短編を精選収録したもの。

林真理子以外は知らない作家ばかりで、扱っている題材も変わっています。

奥山景布子の「太郎庵より」は、幕末の尾張徳川藩の女性隠密が主人公。尾張徳川藩は御三家筆頭のくせに先頭をきって幕府を見限った藩として有名。

林真理子の「仮装舞踏会」は、鹿鳴館で行われる仮装舞踏会に出席する西郷従道の心境を描いたもの。

村木嵐の「あかるの保元」は、15歳の内裏の雑仕女あかるの目を通して描いた保元の乱

箕輪諒の「宇都宮の尼将軍」は、戦国時代の宇都宮家を守り抜いた宇都宮広綱の未亡人・南呂院の物語。北条の侵攻に対して、佐竹・結城と同盟して対抗します。

佐々木功の「沈黙」は、妻ガラシャの死をきいた細川忠興の心境を描いたもの。父の藤孝を“一歩引いた男、危ない橋を避ける男”と批判しているのが面白いです。管領を務めた名門細川氏の養子でありながら、幕府運営の前面には出ず、義昭と信長の斡旋は光秀に任せ、義昭と信長の不仲が表面化すると一早く義昭の動きを信長に伝えて身の安全を図り、光秀と秀吉の対決には親友である光秀に組せず、隠居という逃げをうつ。忠興は愛する妻の父と戦う責任を押し付けられた格好ね。

矢野隆の「鴨」は、愛していた妾のお梅を新選組局長・芹沢鴨の愛人にされた菱屋太兵衛の心境を描いたもの。

植松三十里の「雪山越え」は、武田信玄の人質にされていた徳川家康の異父弟・松平康俊の逃走物語。

大塚卓嗣の「脱兎」は、信州に駐屯していた織田勢の森長可が、信長の死で反旗を翻した信濃国衆の囲みを破って領地へ帰り着くまでの物語。

川越宗一の「ゴスペル・トレイン」は、西南戦争で西郷軍び加わった佐土原島津家の島津啓次郎が城山で米国留学時のことを邂逅する物語。

青山文平の「剣士」は、居候の存在である老武士の死にざまを描いたもの。今回の短編集の中で、唯一モデルのない物語。

浮穴みみの「貸し女房始末」は、明治維新の札幌を舞台に、薄野遊郭誕生を背景にした物語。

視点を変えることで、時代小説の楽しみが深くなるような作品ばかりで~す。

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