懐かしのスパイ映画

録画していた『寒い国から帰ったスパイ』(1966年/監督:マーティン・リット)を観る。007の大ヒットでスパイ・アクションがブームになる中、ジョン・ル・カレの本格スパイ小説を原作にしたシリアスなスパイ映画です。

MI6の諜報員リーマスリチャード・バートン)は東ドイツに潜入。東ドイツ諜報機関を牛耳るムント(ペーター・ヴァン・アイク)は英国の二重スパイですが英国を裏切ったと思われたからです。ムントの部下で、冷徹な防衛本部長フィードラー(オスカー・ウェルナー)を利用してムントの抹殺を計画。フィードラーはユダヤ人で、ナチ出身のムントを憎み、その地位の失脚を狙っていたからです。報われないことから国に愛想をつかしたスパイを装い、用意周到に準備してフィードラーの部下からの接触を待ちます。リーマスに会ったフィードラーは、ムントが二重スパイであることを聞き出し、ムントの罪を問う査問会が開催。リーマスの証言でムントが失脚するかに見えた時、弁護側の証人としてリーマスが愛していた女性ナン(クレア・ブルーム)が現れ……

どんでん返しで、フィードラーがムントを失脚させるための虚構の工作をしたものと判決がくだされます。MI6はムントを安全にするために邪魔なフィードラーを葬り去るのが目的で、リーマスも利用されていたんですな。ムントの手配でリーマスとナンは壁を越えて脱出しようとしますが、MI6は共産党員のナンを生かしておくつもりはなく、リーマスが壁を上ったところで、ナンを射殺。リーマスは西側に降りることなく、ナンに寄り添って殺されます。

寒い国とはスパイ世界のこと。ラストはスパイ世界から人間世界に帰ってきたことを意味しているんですね。目的のためなら配下を消耗品扱いするスパイ世界の非情さ、薄ぎたなさを、重苦しくもシャープな感覚の中にとらえた秀作で~す。