芸術映画ということで

録画していた『神々の深き欲望』(1968年・日活/監督:今村昌平)を観る。キネマ旬報第1位となった芸術映画。

土俗信仰が根強い南海の孤島クラゲ島、根吉(三国連太郎)は妹ウマ(松井康子)と淫らな行為をしたということで鎖につながれ、神田に立っている巨岩の仕末をするため穴を掘る毎日。しかし、鎖を外して息子の亀太郎(河原崎長一郎)と密漁したりするので、父親(嵐寛寿郎)から棒でうたれたりします。ウマは町長で製糖工場の工場長でもある竜(加藤嘉)の妾。東京から製糖会社の測量技師(北村和夫)が水源調査のためにやってきます。しかし、島民から妨害を受けて水源発見の情熱を失い、男好きで知的障害がある根吉の娘トリ子(沖山秀子)と関係を結び……

日本の社会に根深くひそむ原始的な思想、性愛を純粋培養的に形象化した作品ということですが、よくわかりません。映像の美しさと、嵐寛寿郎の存在感だけが目立っています。嵐寛寿郎はこの映画でブルーリボン助演男優賞を受賞。

ラカンがこの映画の撮影のことを語っているのですが、実に面白いです。早川雪洲に断られて今村昌平はアラカンに出演交渉したのですが、アラカンはシナリオを読んで“近親相姦”がテーマなので断ります。すると『東シナ海』の出演依頼がきて出演したのですが、撮影中に今村昌平がやってきて、石垣島まで1時間でいけるのでもう一本撮りましょうと言われ、欲の出たアラカンさんは出演。石垣島どころか南大東島まで連れていかれます。

「誘拐ですわ。三ヶ月・半年・1年近く撮影かかりました。もうむちゃくちゃダ。暑いの何のムシ風呂でおます南大東島。サトウキビしかあらへん。じきに海がシケよる。オカズない乾麵食うとる、とうとうタバコまでのうなりました。こらほんまの地獄や」

「テスト38回、本番18回もやらされた。もう頭ポーとして、何も考えられしません。船がきたから逃げた、沖縄まだ日本やない時分でおますわ。那覇でとらまえられる。また逃げ出す。映画俳優生活50年の中で、これほど印象深い作品はおへん」

資本主義の倫理や習俗の空しさを衝くがごとき演技のアラカン曰く「今村昌平がおらなんだったら天国やったが、作品は胸せまる立派な出来やった」そうで~す。