映画史を知るうえで

nostalji2013-02-17

録画していた『マダムと女房』(1931年・松竹/監督:五所平之助)を観る。筆が進まなくて静かな郊外に引っ越してきた劇作家(渡辺篤)が隣家のジャズに抗議に行って、逆に好きになるという喜劇です。日本最初のオールトーキー作品で、観客の期待通りに“音”を中心に物語が展開しています。
チンドン屋の音に始まり、主人公が口笛を吹いて現れ、写生している画家の絵にけちをつけてケンカとなり、顔に絵具をつけられるという古い喜劇パターン(パイ投げで顔中ベタベタになるのと同じね)の後、サイフの金勘定していた女房(田中絹代)から早く原稿を書くようにせかされるのね。田中絹代から「ね〜ん、あなた〜ん」なんて甘い声で言われると机に向かわざるをえませんな。田中絹代が実に色っぽいんですよ。ところが、ネズミが天井を走り、猫は泣き、赤ん坊まで泣きだして筆は進みません。隣家からはジャズ演奏が聞こえてきて、うるさくて抗議に行くのですが主催しているマダム(伊達里子)の魅力に参ってしまい、酒と音楽にメロメロになってマダムと踊っているところを女房に見られて……
結局、主人公はジャズを好きになり、ジャズのリズムに乗ってスイスイ原稿を書くことができるんです。日本髪の女房もラストでは洋風のヘアになっていて、ジャズに代表されるアメリカのモダニズムが明るく肯定されています。昭和初期は、まだ日本がモダニズム文化を自由に享受できていたんですね。生活風景や人物描写も素晴らしく、1931年度のキネ旬ベスト1に納得。