早撮り作品だが

nostalji2016-11-12

ダビングして持ってきた『明治侠客伝・三代目襲名』(1965年・東映/監督:加藤泰)を観る。渡世ゆえにたてまえに生きねばならぬ男と、その男への愛一筋に生きる女の、実らぬ恋の葛藤のドラマで、任侠映画の傑作と評価の高い作品です。
祭りの雑踏で、木屋辰組二代目(嵐寛寿郎)が刺客(汐路章)に襲われます。木屋辰組の土建事業を横取りしようと考える新興建設業の星野(大木実)がヤクザの唐沢(安部徹)に命じたのね。木屋辰組の代貸・浅次郎(鶴田浩二)は娼妓の初栄(藤純子)と思いあう仲でしたが、唐沢から身請けを迫られています。浅次郎が初栄と逢っていた時、二代目が息をひきとり、浅次郎は初栄をあきらめ、三代目を襲名。浅次郎は堅気の土建屋・木屋辰を二代目の息子・春夫(津川雅彦)に譲り、自分はヤクザ渡世の道に進みます。浅次郎が恩ある野村(丹波哲郎)の仕事で大阪を離れている間に、星野と唐沢は春夫に罠をかけ、助けようとした客人の石井(藤山寛美)が殺されます。知らせを聞いた浅次郎は単身殴り込み……
わずか18日間で撮影された作品で、倉田準二が二代目の襲われるシーンや石井が殺されるシーンなどのB班監督をしています。汐路章が不気味な刺客で存在感を見せ、その後の加藤作品には欠かせぬ傍役となりました。『車夫遊侠伝・喧嘩辰』では小娘ていどの女優だった藤純子も、この作品では一皮むけていますね。浅次郎のおかげで父の死にめにあえた初栄が故郷の庭でもいできた桃を浅次郎に手渡す時の情感、唐沢に身請けされた初栄が「うちは死んだ娘(こ)だす」といって胸に赤いトマトを抱えるシーンの切なさは、屈指の名場面といえます。監督が意図した通り、ヤクザという男の世界に、女との絆が絡んでくる長谷川伸の世界を描ききっていま〜す。