文芸というより

nostalji2016-08-02

録画していた時代劇『山椒大夫』(1954年・大映/監督:溝口健二)を観る。森鴎外の原作の映像化で、ヴェネツィア映画祭で銀獅子賞を受賞しています。童話『安寿と厨子王』としても有名ですね。
平安時代末期、農民の窮乏を救うために鎮守府将軍に立てついて筑紫の国に流された父(清水将夫)に会う為に少年・厨子王(加藤雅彦津川雅彦)は、母(田中絹代)と妹・安寿と越後を旅していた時、人買い騙され、母は佐渡へ、厨子王と安寿は丹後の荘園管理者・山椒大夫進藤英太郎)へ売られてしまいます。山椒大夫は二人を奴隷としてこき使うのね。成長した厨子王(花柳喜章)と安寿(香川京子)は荘園からの脱走を考え……
花柳喜章と香川京子のキャスティングが決まっていたため、姉弟という関係が兄妹に変わっています。荘園からの脱走で、姉が犠牲になって弟を逃がすのでなく、妹が兄の犠牲になるというのは心情的に気に入りません。安寿の入水自殺のシーンは映像的には素晴らしいものになっていますけどね。ストーリー的には不満の多い作品ですが、神々しいまでの美しい映像が随所にあって、白黒撮影の粋といえる作品です。宮川一夫の撮影テクニックが生んだ傑作ですね。
理想のススキ原の画面にするためにススキを一本一本植えさせたり、悲痛な声にするために田中絹代をスタジオの回りを何回も走らせたとか、そうやって出来た作品ですから演出が見事なのは当たり前。ゴダールの『軽蔑』のラストシーンは、この作品から引用しており、溝口へのオマージュとゴダールは語っていま〜す。