懐かしのヌーベルバーグ

録画していた『ピアニストを撃て』(1960年/監督:フワンソワ・トリュフォー)を観る。ジャン・リュック・ゴダールと並ぶヌーベルバーグ監督トリュフォーのサスペンス映画です。

パリの場末のカフェでピアノを弾いているシャルリ(シャルル・アズナヴール)のところへ二人組に追われた兄シコ(アルベール・レミー)が逃げ込んできます。シャルリはシコをうまく逃がしてやりますが、今度はシャルリが二人組につけまわされることになります。シャルリは好きになった店の給仕女レナ(マリー・デュボア)と一緒のところを二人組に捕まりますが、隙をみて逃走。シャルリとレナは強く惹かれあい、人生をやり直すために店主のプリーヌ(セルジュ・ダウリ)にカフェを辞めると言います。レナに横恋慕しているプリーヌはシャルリを殺そうとして逆に殺され、シャルリはレナと兄リシャールの山小屋へ。そこにはシコもいて、シコとリシャールに奪われた金を取り戻すために弟のフィード(リチャード・カナヤン)を人質にした二人組が現れます。銃撃戦がはじまり……

主人公は、かつては天才ピアニスト。臆病な性格から、妻(ニコル・ベルジェ)との間で悲しい出来事がおこり、人生に絶望して心を閉ざしています。この回想シーンの比重が大きく、人間ドラマを形成。弾き手を見せず、ピアノハンマーが弦を叩くだけのタイトルシーンだけでトリュフォーの味が出ています。原作を忠実に正攻法で演出すれば、普通のノワール・サスペンスになってしまいますが、トリュフォーは洒落っ気たっぷりに演出。乳房を丸出しにしている娼婦(ミシェル・メリシェ)に対して、シャルリが「映画ではこうするのさ」と言ってシーツで乳房を隠すシーンは、当時の映画のベッドシーンに対する皮肉。この映画以降、ベッドシーンで女性の乳房をシーツで隠す演出はなくなったとのこと。

「筋書通りの物語から離れたかった。どのシーンも楽しめるものにすることだけを基準にした」と語っているように、遊び心が多くて、まともなノワールを期待していた観客に受けが悪く、公開当時は不評だったようで~す。