せなで泣いてる唐獅子牡丹〜

nostalji2015-02-18

録画していた『昭和残侠伝・死んで貰います』(1970年・東映/監督:マキノ雅弘)を再見。“昭和残侠伝”シリーズは全部で9作あって、これは第7作目にあたります。任侠道に生きるヤクザと新興悪徳ヤクザの縄張争いを背景に、高倉健の花田秀次郎と池部良の風間重吉が渡世の義理を超えて結びつき、最後には二人肩を並べて殴り込みに行くというのがシリーズ共通のパターンでした。この作品は、そんなマンネリ打破を狙って少し毛色を変えており、シリーズの中でも出色の出来となっています。
物語は、なけなしの金をイカサマ賭博でまきあげられ、雨の中、大銀杏の木の下でうずくまっている秀次郎と芸者見習いの幾江(藤純子)との出会いから始まります。一目で互いに惹かれあうんですな。3年後、秀次郎はイカサマを見破り、イカサマ師の熊倉(山本麟一)を斬って刑を受けます。秀次郎は東京深川の老舗料亭の息子でしたが、父(加藤嘉)が後妻(荒木道子)をめとり妹が生まれた時に家をとびだしてヤクザになったんです。入所中に関東大震災で父と妹が死んだことを叔父貴の寺田(中村竹弥)から知らされ、堅気になることを諭されます。継母は盲目となり、出所した秀次郎は実家の料亭をきりもりしている風間の勧めで板前として働くことになるのね。売れっ子芸者となって秀次郎の帰りを待っていた幾江は、寺田と風間の計らいで7年ぶりに秀次郎と再会します。安穏な生活はつかの間、妹の婿となって料亭を継いだ武志(松原光二)が相場に手を出して新興ヤクザの駒井(諸角啓二郎)から金を借りたことから借金のかたに店の権利書を取りあげられます。それを買い戻す交渉に出かけた寺田が、帰り道に駒井一家に襲撃され落命。駒井は寺田が持っている深川運河の利権を狙っていたんです。これまで駒井の執拗な挑発に耐えてきて秀次郎と風間でしたが、恩人の死に怒りを爆発、殴り込みへ……
昨日の加藤泰がローアングルで情感を出していたのに対し、マキノ雅弘は俯瞰ショットで情感を出しています。冒頭の大銀杏の木の下での秀次郎と幾江のシーン、ラストの警官に連行される秀次郎に幾江が羽織を着せかけるシーンなどは味わい深いです。この作品はマキノ演出が随処に見られます。駒井に言い寄られる幾江が流れるような動きでかわしてゆく所作は、藤純子だけでなくマキノ作品に出演する女優共通の動きです。マキノ監督が自ら演技指導しているんですね。マキノ監督は早撮りで有名ですが、調理場で風間と秀次郎が料理の下ごしらえしているところに、かたわらで秀次郎の弟分(長門裕之)と幾江が加わって他愛もない会話をするシーンは2台のカメラで撮影されたとのこと。同時進行で見事なカット編集がされています。人情ドラマの要素が大きい内容ですがアクションシーンはしっかり見せており、シリーズ最高傑作が頷けま〜す。
画像は映画ポスター。映画の内容とイメージが異なり、クランクインする前に作られたものでしょう。