最近の西部劇から

友人に送ってもらった『この茫漠たる荒野で』(2020年/監督:ポール・グリーングラス)を観る。南北戦争後のテキサスを舞台に、孤独な退役軍人と、孤児の少女が旅をするロードムービー西部劇です。

南軍の第3歩兵連隊の大尉だったJ・K・キッド(トム・ハンクス)は、ニュースの読み聞かせを生業にして旅をしています。そんな旅の途中、連れの黒人が殺されて独りぼっちで隠れていたジョハンナという少女(ヘレナ・ゼンゲル)を救出。6年前にカイオア・インディアンに連れ去られた少女で、キッドは彼女を軍の駐屯地に連れて行きますが、担当官は出張中で、戻るのは3ヶ月後と知らされます。それで、キッドはやむなくジョハンナを彼女の伯母がいるという村まで送り届けることになるのですが、ジョハンナはカイオワ語と断片的にドイツ語の単語が喋れるだけで、英語は喋れません。640キロの道中には、人身売買の無法者やバッファロー狩りをしているカルト集団、それに自然の猛威が待ち受けており……

この作品が、トランプとバイデンが対立する分断状況時に制作されたことは意味深いですね。南北戦争直後のテキサスの分断状況を描くことによって、現在のアメリカ社会の問題を捉えているんですな。かつて、西部劇を見ればアメリカの社会がわかると言われましたが、これもその一つといえます。主人公をニュースを読む人にしたのは、偏った情報に対する警告の意味合いがありそうです。

人間不信者同士が心を通いあわせるようになるというのが物語の本筋で、トム・ハンクスとヘレナ・ゼンゲルの演技以上に、西部開拓期の過酷な状況下で展開するので納得感があります。説明的なセリフはなく、映像で語らせているのもグッド。極限状態の人間ドラマを描くには、現代社会では矛盾や無理が生じるので、西部劇はうってつけの題材で~す。

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