ニューシネマ西部劇

nostalji2012-06-05

録画していた『男の出発(たびだち)』(1972年/監督:ディック・リチャーズ)を観る。カウボーイに憧れる16歳の少年(ゲーリー・グライムス)がコックの助手としてキャトルドライブに加わり成長していく物語です。セピア色の記録写真風の映像から始まり、『ローハイド』などの1960年代までの西部劇に見られたカウボーイとは異なるリアルな作品となっています。それでいて、殺伐としたものだけでなく、叙情や詩情も漂っているんですよ。
ガラガラ蛇の尻尾を使って牛を暴走させ、群れから離れた牛を盗んだ泥棒一味との銃撃戦で4人のカウボーイが死に、少年は隊長(ビリー・グリーン・ブッシュ)から仲間補充の使いを頼まれます。隊長が言っていた男はカウボーイというよりガンマンで、ジェフリー・ルイス、ルーク・アスキュー、ボー・ホプキンス、ウェイン・サザーリンの個性派傍役の4人ね。使いの途中で少年から馬を盗んだ二人組の猟師を情け容赦なく射ち殺したり、酒場で馬泥棒一味を相手にガンマンぶりを見せます。少年もショットガンを手にしようとしたバーテンを射殺します。見張りに立っていた時、馬泥棒を見つけたのですが射つことができず、馬を盗まれた少年がたくましくなっていくのね。
乾燥地帯を越え、水と牧草のある土地にやってきた一行は、腹黒い牧場主に(ジョン・マクライアム)に脅され、法外な賠償金を支払います。その土地にはキリスト教団が移住しており、牧場主は彼らも力づくで追い出そうとしているんですな。隊長は牛を運ぶことを優先して土地から出ていきますが、少年は無力な教団のために銃を手にして残ります。そして4人のガンマンも、牛よりも銃の方が大事だ、といって牧場主一味と対決に……
ニューシネマは、ベトナム戦争の影響を受け、暗い現実凝視と、敗北感・挫折感に特徴があります。この作品も、牛のスタンピード、泥棒たちとの戦い、そして悪質な牧場主との銃撃戦と、西部劇の“キャトルドライブ”には定番のエピソードを通して、きれいごとでないカウボーイの実態が描かれています。主人公も、心に傷をおって故郷に帰るのね。監督のディック・リチャーズは写真家出身で、ショットの構図や色彩において映像造形感覚に優れており、これまでにない新しい映像的魅力にあふれていま〜す。